忘れられないプレゼント
朝、玄関のドアを開けるとパンジーとビオラの鉢が置かれていて、グレーのタイルの床がパーッと華やかになっていた。
前日の夜「すみれの苗をたくさん買ってしまったので、そのうち届けるわね」と、友達のR子からメールが入っていた。2、3鉢持って来てくれるのかと思ったら、まあまあ8鉢も。彼女は寒い中、苗を植木鉢に植え替え、ご主人の車に乗せてきてもらい、花を置いて行ったのである。
R子は、4、5件隣に住んでいる体の不自由な母親の世話と、出産後の娘と孫の世話で超多忙である。超多忙でも、大好きな花屋へ行くことは欠かしていないと言っていた。いつもの秋、私はあちこちにパンジーやビオラを植えるが、今年はあまり庭仕事ができず、花の少ない寂しい冬になりそうだった。それに彼女は気づいて、花をたくさん届けてくれたのだと思う。
我が家の玄関のベルも鳴らさず「今、お花を届けたよ」と、メールを送ってきたが、後日、聞くところによると、植え替えたのは前日で、届けてくれた当日はお孫さんが風邪で入院したそうである。そんなたいへんな日に彼女は花を届けてくれたが、私だったらそんな心の余裕はない。彼女は、本当に豆でお人好しである。
すみれには紫式部、清少納言、静御前、小野小町などの名前がつけられていた。紫式部は、パンジーで、花びらがひらひらとカーブしていて、源氏物語の御簾の中の十二単のお姫様を連想させる。清少納言は薄紫に薄い黄色が入っているビオラで、名前をつけた理由が色にありそうだけれど、古典の知識不足の私にはわからない。
花好きはパンジーやビオラの新種がでると、つい買いたくなってしまう。普通すみれは1株80円ぐらいであるが、名前がついている品種改良品だと300円ぐらいになる。それを数十株買い、土や鉢を入れるとけっこうな金額になるが「宝石に興味のない主婦のささやかな楽しみ、自分へのご褒美」などと勝手に理由をつけて、フンパツする。毎年あちこちの店をのぞいては、今年はどんな色のすみれを植えようかと迷うのも、また楽しい。
すみれは太陽が大好きであるが、我が家の玄関は北に向いているので、8つの鉢を南側のベランダと東側と玄関の3ヶ所に分散させて、1週間ごとに鉢を回転させて、大事に育てている。すみれは花の少ない真冬に咲いてくれる重宝な花であるが、春になると、花の色はあでやかになり、花数もぐんと増えてくる。紫式部や小野小町の春の花盛りも楽しみである。
玄関先にすみれの鉢がたくさん置いてあった感動と、R子の優しい気持ちは一生忘れられないと思う。
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